身体的拘束の最小化のための指針
はじめに
カレス記念病院(以下、当院)は、身体的拘束の最小化に向けて取り組みを強化していく。
「緊急やむを得ない場合」の身体的拘束においても、医療従事者として適切な評価を実施し、身体的拘束の最小化・廃止に向けてたゆまず努力し続けなければならない。患者の立場にたって、その人権を守りつつ医療・ケアを行うという基本的姿勢を重んじて、身体的拘束の最小化にむけて取り組むための必要事項を定める。
Ⅰ.身体的拘束の最小化に関する基本的な考え方
当院の理念
身体的拘束の原則禁止
身体的拘束は、入院患者の生活の自由を制限することで重大な影響を与える可能性がある。
当院は、身体的・精神的弊害を招く恐れがある身体的拘束は、患者又は他の患者の生命または身体を保護するための緊急やむ得ない場合を除き原則禁止とする。
当院における身体的拘束の対象となる用具や行為
- ミトン型の手袋を装着し、手指の運動を制限する。
- ベッドや車いすに体幹や四肢を抑制帯やひも等で縛る。
- 介護服(つなぎ服)を着せる。
- 自分の意思で開くことのできない居室等に隔離する。
- 4点柵(壁や柵でベッドを囲むのも同様)
- 離床センサー(クリップ等を患者の衣服等につなげる:うーごくん等)の使用
身体的拘束の対象としない具体的な行為
肢体不自由や体幹機能障害があり残存機能を活かすことができるように、安定した体位を保持するための工夫として実施する行為については、その行為を行わないことが虐待に該当するとみなす。
- 整形外科疾患の治療であるシーネ固定等
- 乳幼児(6歳以下)及び重症心身障がい児(者)等への事故防止対策
ⅰ)転落防止のためのサークルベッド・4点柵使用
ⅱ)点滴時のシーネ固定
-
身体的拘束等をせずに患者を転倒転落や離院などのリスクから守る事故防止対策
ⅰ)離床センサー(センサーマット、おきた君など患者の衣服等に繋げないもの)の使用
ⅱ)衝撃吸収マット、絨毯の設置
ⅲ)家族のつきそい
Ⅱ.身体拘束の最小化のための体制
身体的拘束最小化チームの設置及び開催
本チームは当院の身体的拘束の最小化のために取り組み等の確認、改善を検討する。
切迫性・非代替性・一時性の3要件を満たす緊急やむを得ない理由から身体的拘束を実施した、またはしている場合の身体的拘束実施状況や適性性についての検討を行う。
身体的拘束最小化チーム会議は1ヵ月毎に開催する。
チームの構成員とその役割
| チーム長 |
医師
- チームの責任者及び諸課題の総括責任
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| チーム員 |
薬剤師、リハビリセラピスト、医療安全管理者、身体的拘束最小化担当看護師 |
| 役割 |
- 身体拘束等最小化における措置の適切な実施
- 身体拘束等最小化に関する職員教育
- 院内のハード・ソフト面の充実等
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チームの検討項目
- 身体的拘束等最小化に関する指針の作成・改訂
- 身体的拘束等の実施状況についての把握と検討
- 身体的拘束等の代替案、拘束解除に向けての検討
- 職員全体への教育、研修会の企画・実施
記録及び周知
チームでの検討内容・結果については、議事録を作成・保管するほか、議事録をもって職員へ周知を行う
Ⅲ.身体的拘束最小化の為の方針
目指すべき目標
患者の理解とよりよいケアの実現を目標とする。身体的拘束最小化・廃止を実現していく取り組みは、院内におけるケア全体の向上や生活環境の改善のきっかけとなりうる。身体的拘束を最小化・廃止していく過程で提起されたさまざまな課題を真摯に受け止め、よりよいケアの実現に取り組んでいく
身体的拘束を最小化させるために行うこと
患者を理解し身体的拘束を誘発する原因の特定と除去
身体的拘束最小化チームによる患者回診(以下ラウンド)を月に2回実施する。ラウンドにより身体的拘束の状況等の情報収集、コンサルテーションにより身体的拘束の最小化の為の対応について検討する。患者の行動にはその人なりの理由や原因があるため、患者の特徴を日々の状況から十分に理解し、身体的拘束を誘発するリスクを検討し、そのリスクを除くために対策を実施する。
5つの基本的なケアの充実を図り、生活のリズムを整える
- 起きる
座ることで重力が身体にかかり覚醒に繫がる。視覚や聴覚も覚醒し、周囲で生じていること、今の環境を把握することに繫がる。起きるのを助けることは人間らしさを追求する第一歩である。
- 食べる
楽しみや生きがいであり、脱水や感染予防にも繋がり、点滴や経管栄養が不要となる
- 排泄する
なるべくトイレで排泄してもらうことを基本に考える。おむつを使用している人については、随時交換が重要である。排泄物がついたままだと「おむついじり」等の行為に繫がる。
-
清潔にする
入浴などの保清により清潔を保つ。皮膚が不潔なことがかゆみの原因になり、そのため大声を出したり、夜眠れずに不穏になったりすることになる。清潔を保つことで本人が快適になり、周囲もケアを行いやすく、良好な人間関係に繫がる。
- 活動する(アクティヴィティ)
そのひとの状態や生活歴にあったよい刺激を提供することが重要である。その人らしさを追求する上で心地よい刺激が必要である。
緊急やむを得ず身体的拘束等を行わざるを得ない場合の対応
身体的拘束は行わないことが原則であるが、当該入院患者又は他の患者の生命又は身体を保護するため、緊急やむを得ない場合に該当する3要件を満たすときのみ以下の手続き等に沿って慎重な判断を行い、身体的拘束等を行う。
緊急やむを得ない場合に該当する3要件の確認
「緊急やむを得ない」場合に該当する3つの要件全て満たしている事が必要である。
-
切迫性:患者本人又は他の患者の生命・身体・権利が危険にさらされる可能性が著しく高いこと。
「身体的拘束等を行うことにより患者本人の日常生活等に与える悪影響を勘案し、それでもなお身体的拘束等を行うことが必要となるまで、患者本人又は他の患者の生命または身体が危険にさらされる可能性が高いことを確認する必要がある。」
-
非代替性:身体的拘束等その他の行動制限を行う以外に代替する方法がないこと。
「いかなる時でも、まず身体的拘束等を行わずに支援する全ての方法の可能性を検討し、患者等の生命または身体を保護するという観点から、他に代替手法が存在しないことを複数の職種で確認する必要がある。また、身体的拘束の方法自体も、本人の状態に応じて最も制限の少ない方法により行わなければならない。」
- 一時性:身体的拘束等その他の行動制限が一時的であること。
「本人の状態に応じて必要とされる最も短い拘束時間を想定する必要がある。」
緊急やむを得ない場合に該当するか検討を必要とされる患者の状態・背景
- 気管切開・気管内挿管チューブ、中心静脈カテーテル、経管栄養チューブ、膀胱留置カテーテル、各種ドレーンなどを抜去することで、患者自身に生命の危機および治療上著しい不利益が生じる場合
- 精神運動興奮(意識障害、認知障害、見当識障害、薬物依存、アルコール依存、術後せん妄など)による多動・不穏が強度であり、治療に協力が得られない、自傷・他傷などの害を及ぼす危険性が高い場合
- ベッド・車椅子からの転倒・転落の危険性が著しく高い場合
- 重症心身障がい児(者)等における行動障害(自傷行為や異食など)が頻回かつ切迫
- その他の危険行動(自殺・離院・離棟の危険性など)
適応要件の確認と承認
身体的拘束は切迫性・非代替性・一時性の3要件を満たす緊急やむを得ない場合に限り、医師、看護管理者、担当看護師など、複数の担当者で適応の要件を検討、アセスメントし最終的には医師が決定する。医師は身体的拘束の指示を出し、記載する。
手術や検査のために、患者に身体的拘束が必要となる可能性が高い場合には、医師が事前に同意を得る。実際に患者に身体的拘束を実施する際には、複数の看護師で必要性を判断し実施する。
実施した場合には主治医・家族へ報告する。主治医は身体的拘束開始を診療録に記載する。
患者本人及び家族への説明と同意
-
身体的拘束の必要性がある場合、医師は本人又は家族の意思を尊重した十分なインフォームドコンセントを行い、「身体拘束等行為の関する同意書」に沿って患者・家族等へ説明し同意書を得る。説明内容は以下の通りである。
①身体的拘束等を必要とする理由
②身体的拘束等の具体的な方法
③身体的拘束等を行う時間帯及び時間
④身体的拘束等の開始及び解除の予定
- 緊急に身体的拘束の必要性が生じた場合は電話にて説明し承諾を得る。(承諾を得る際、承諾者の氏名・続柄をカルテに記載しておく)後日説明を行い、同意書を得る。
- 緊急やむを得ず身体的拘束を開始した後は「緊急やむを得ない場合」に該当するかどうかを常に観察、再検討し3要件に該当しなくなったら、直ちに拘束を解除する。
- 身体的拘束実施時のケア方法・観察時間などについて看護計画を立案し、患者本人・家族へ説明を行い実施する。(緊急で開始した際は、後日説明を行う)
身体的拘束実施中の留意事項
身体的拘束実施中は、「患者の安全確保」への責任義務および「身体拘束等による事故防止」への注意義務を遂行し、十分な観察・ケアを行う。特に抑制帯による体幹・上肢・下肢等の抑制、ミトン使用の場合には以下の点を留意する。
(1)抑制方法
- 抑制部位に応じた適切な抑制用具を選択し、必要部位に確実に装着する
- 抑制具装着に緊急かつ安全性を要する場合は2人以上の看護師が協力して行う
(2)観察
-
抑制実施中は患者の状況に応じ適宜、観察を実施する(少なくとも2時間毎に)
・抑制が確実に行なえているか
・抑制部位及び周辺の循環状態、神経障害の有無、皮膚の異常の有無
・患者の精神状態、体動状態
*同一体位の持続による局所の圧迫と循環障害によって、関節の機能障害が出現し屈曲しにくくなる。また圧迫部位に発赤・摩擦による皮膚損傷が発生しやすい。上肢においては橈骨神経麻痺、尺骨神経麻痺に留意する。
- 異常が認められた場合は速やかに医師に報告をする。
(3)看護
- 抑制の部位や時間は最小限にとどめる。
- 抑制中は最低2時間毎に抑制具を解除(継続的に必要な場合も)し、観察と記録を行う。
- 最低2時間毎の体位変換・体位調整を行う。
- 必要に応じマッサージや清拭、四肢の自動・他動運動を行う
- 可能な限り身体拘束等をしなくてよい方策や早期に解除できる方策を検討し、身体拘束等が恒常化しないようにする
(4)薬剤の適正使用
向精神薬や安定剤の使用については、過剰投与によって患者の行動を過度に抑制することがないように適正な量の投与をする。
身体拘束実施中の評価と記録
- 医師は身体拘束開始を診療録に記載する。夜間休日など主治医不在の時間に開始になった場合には、事後記載する。
- 看護師は毎日身体拘束等の必要性をアセスメントし、カンファレンスを行う。
- 身体拘束中は2時間毎に患者の状態を観察し、身体的拘束等による傷害がないか観察し、記録する。
- 説明・申請した期限に満たなくても「身体的拘束等」の必要がなくなった場合や退院された場合は、身体拘束等を中止・解除する。主治医は診療録に身体拘束解除の指示を記録に残す。
身体的拘束の解除基準
- 3要件を満たさなくなった場合
- 身体的拘束等の影響から身体的侵襲が出現した場合
身体的拘束解除に向けた検討と情報共有
- 身体的拘束をする場合は、早期解除を目指し多職種と連携し、背景の理解・代替措置・限定実施の検討を踏まえた看護計画を立案し、1日1回カンファレンスを実施する。
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カンファレンスでは身体的拘束等の早期解除に向けて、身体的拘束等の必要性や方法を随時検討する。患者の心身の状況、やむを得ず身体的拘束等を行う3要件を踏まえ継続の必要性を評価し、カンファレンス日・参加者・カンファレンス内容を記録する。
- 医師はカンファレンス内容を確認し、身体的拘束等の継続または解除の有無を指示する。
- 再検討の結果、身体的拘束等を継続する必要がなくなった場合は、速やかに身体的拘束等を解除する。その場合には患者または家族に報告する。
Ⅳ.その他身体拘束等の適正化の推進のために必要な基本方針
各部署の身体的拘束実施患者の情報把握
各部署の病棟管理日誌内「拘束患者」欄に記載する
身体的拘束最小化チームによるラウンド
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各部署で入力した身体的拘束患者に基づき、身体的拘束最小化チームによるラウンドを月に2回実施する。ラウンドでは、身体的拘束の適正化・最小化となるように実施状況を確認し、アセスメントを行い身体的拘束が適正化となるように検討する。ラウンドの対象となった患者の検討内容は看護記録に記す。
- 身体的拘束最小化チームによるラウンド内容を会議で検討し、身体的拘束が最小化となるように協議していく。
行動制限実施に関する基本方針
目指すべき目標
身体的拘束を使用せず患者の理解とよりよいケアの実現を目標とするため、患者の行動の早期発見や危険回避のために使用する。身体的拘束同様、行動制限実施の最小化を目指す。
行動制限の方法
抑制帯・ミトン・安全ベルト・4点柵
離床センサー使用(ウーゴ君・エッセンシャル・クリップセンサー)。※マットは除く。
適応要件の確認と承認
実施には複数の担当者で適応の要件を検討、アセスメントし医師が「身体的拘束等に関する同意書」に沿って患者・家族等へ説明し同意書を得る。
身体的拘束実施中の評価と記録
- 行動制限実施時のケア方法・観察時間などについて看護計画を立案し、患者本人・家族へ説明し実施する
- 看護師は毎日行動制限の必要性をアセスメントし、カンファレンスを行う。
行動制限の解除基準
危険行動や危険リスクが低減したと複数の看護師で判断出来た時
Ⅴ.身体的拘束最小化のための研修
- 全職員対象とした身体的拘束最小化のための研修を年1回以上開催する。
- 研修主催者が実施日・実施場所・研修名・内容を記載した記録を作成する。
附則
- 本事項は、令和7年5月から施行する。